人が辞めるたびに、その人が身につけた「判断」は消えていく。
それを社会は、いつまで繰り返すのか。
知識は文書に残せる。
情報はデータとして残せる。
手順はマニュアルにできる。
しかし、
「何を見て判断したのか」
「何を重視したのか」
「どこで迷ったのか」
「どの条件で結論を変えたのか」
という、人が長年の経験によって身につけた判断そのものは、多くの場合、その人が異動・退職するとともに失われていきます。
そして次の担当者が、またゼロから学び直す。
新人教育。
上司への相談。
引継ぎ。
手戻り。
判断ミス。
ベテランへの依存。
私たちは、こうした見えないコストを毎年支払い続けています。
本書『判断構造の経済学』では、人間の判断を構成する要素や判断境界を外部化し、組織の中へ残していく「判断構造の外部化」という考え方を、経済価値・組織運営・人口減少・AI時代という視点から考察します。
一回の判断はいくらなのか。
相談にはどれだけの組織時間が使われているのか。
新人が一人前になるまでに、どれほどの再学習コストが発生しているのか。
ベテラン一人が退職したとき、組織は何を失うのか。
そして、人間の判断を「消費するもの」から「蓄積するもの」へ変えることはできるのか。
本書で示す経済効果の多くは、現時点では仮説的試算です。
判断構造の外部化そのものが、どこまで実現可能なのかも、今後の実証によって確かめなければなりません。
だからこそ本書では、
「分からない。だから測る。」
という姿勢を重視しました。
巻末には、
・判断コスト測定シート
・相談コスト測定シート
・教育・異動・引継ぎコスト測定シート
・判断ミス・手戻りコスト測定シート
・外部化に向く業務チェックリスト
・簡易実証プロトコル
・実証評価指標一覧
・年間経済価値試算テンプレート
・悲観・基準・楽観シナリオ試算表
・判断資産台帳
を収録。
単なる思想書ではなく、実際に組織で測定・検証を始めるための実務ツールとしても使える構成です。
人口が減る社会では、働く人の数だけではなく、社会が持つ判断能力まで失わせてはいけない。
人が去っても、経験の一部は残る。
次の人は、ゼロから始めなくてもよい。
一人の経験が組織へ残り、組織の経験がいつか社会へ蓄積されていく。
判断を消費する社会から、判断を蓄積する社会へ。
知識を残す仕組みはある。
情報を残す仕組みもある。
では、人が長年かけて身につけた「判断」は、誰が残すのか。
本書は、その問いから始まる一冊です。
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